膵臓の疾患(嚢胞性病変)
膵臓の嚢胞性疾患には大きく真性嚢胞、仮性嚢胞、嚢胞性膵腫瘍、充実性膵腫瘍の嚢胞変性の4つに分類されます。
真性嚢胞
真性嚢胞は粘液を分泌する上皮をもちますが、仮性嚢胞は上皮が
存在せず、線維被膜で覆われています。
1.貯留嚢胞
膵石や膵癌による分枝膵管の閉塞により、閉塞部の上流に膵液が貯留して嚢胞状に拡張したもの。原因となる膵癌が小さく、貯留嚢胞が大きい場合は膵癌が見逃されて仮性嚢胞や嚢胞腺腫と誤診される場合もありますので注意が必要です。
2.先天性嚢胞
膵臓の発生過程で小膵管の連続性が何らかの原因によって分断されて未熟な膵管が膵実質内に取り残されて、そこに分泌液の貯留がおきて嚢胞が形成されたと考えられています。そのため、膵管との交通はありません。
3.リンパ上皮嚢胞
先天性嚢胞の一つ。組織学的には重層扁平上皮に覆われた内層とそれを囲むリンパ組織の外層からなります。単房性または多房性で、男性に多く、膵外性に突出する形態が特徴の一つです。
4.類上皮嚢胞
膵内に迷入した副脾から発生したもので、膵尾部に境界明瞭な多房性嚢胞として認められろことから、粘液嚢胞性腫瘍との鑑別が問題になります。
仮性嚢胞
仮性嚢胞(Pseudocyst)は、急性膵炎や外傷による膵組織の壊死や出血巣に破綻した膵管から膵液が漏れ出したものと、膵臓癌や慢性炎症による主膵管の流出障害のために、膵管から膵液が漏れ出して形成されるものがあります。
嚢胞性膵腫瘍
1.漿液性嚢胞腫瘍(SCN:serous cystic neoplasm)
ほとんどが良性の腫瘍で、女性の膵尾部に好発するとされています。腫瘍は線維性の皮膜に覆われ、内部は小嚢胞からなるスポンジ様の腫瘍です。数mm以下の微小嚢胞成分が多数集合しているため、超音波像は高エコーの充実性腫瘍様で嚢胞状にはみえません。
2.粘液性嚢胞腫瘍(MCN:mucinous cystic neoplasm)
良性、悪性ともにみられ、中年女性の膵体部~尾部に好発する、基本的に単発性の嚢胞性腫瘍です。膵管上皮由来の腫瘍で、厚い線維性の皮膜に覆われ、比較的大きな嚢胞成分からなる単房性もしくは多房性腫瘍で、隔壁や被膜には石灰化を高頻度で認めます。嚢胞は粘液成分からなり、嚢胞内腔に突出する隆起や隔壁内の結節性病変をみた場合は悪性の所見を示唆します。
3.膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN:intraductal papillary mucinous neoplasm)
主膵管内や分枝膵管内に発育する乳頭腺腫で良性、悪性ともにみられます。粘液産生腫瘍と呼ばれていたもので、高齢男性の膵頭部に好発します。主膵管型では主膵管に高度拡張がみられ、主膵管内腔に乳頭状成分を認めることがあります。分枝型では小さな多房性嚢胞がみられ、通常、主膵管に拡張はみられません。混合型は主膵管型と分枝型の所見を呈します。
充実性膵腫瘍の嚢胞変性
1.solid pseudopapillary tumor
若年女性に好発する予後のよい良性疾患で、以前はsolid and cystic tumorと
呼ばれていました。この疾患は本来充実性腫瘍ですが、高頻度に腫瘍内に出血壊死をきたすため嚢胞成分を伴います。
2.内分泌腫瘍
内分泌腫瘍は壊死や変性によってしばしば嚢胞を伴い、嚢胞性腫瘍と紛らわしいことがあります。腫瘍径が大きいものほど、そして機能性よりも非機能性の方が嚢胞を伴うことが多いとの報告があります。
3.特殊な膵癌
腺扁平上皮癌、退形成性癌、腺細胞癌などの特殊型の膵癌は、内部に集結や変性壊死を伴うことが多く、嚢胞性腫瘍に間違われることがあります。